アメリカでは「自分から辞めたらゼロ」。日本でアメリカ人夫が失業手当をもらった話
夫はアメリカ人です。アメリカでは、自分から会社を辞めたら、基本的に何ももらえません。失業手当も、セーフティネットも、なし。あるのは「グッドラック!」の一言だけ。
だから2019年、自己都合で会社を辞めた数週間後、夫がハローワークの窓口に向かったとき、彼は同じ答えを覚悟していました。「自分から辞めたんだから、ゼロですよ」と。
最初は私も付き添いました。夫はガチガチに緊張していて、前の晩にGoogleで調べたけど、理解できたのはたぶん3割くらい。窓口では職員さんが日本語で話し、私が通訳し、夫はほぼ書類を指差してうなずくだけ。
そして職員さんが、一冊のパンフレットを差し出しました。 英語の。
「自分から辞めても、数ヶ月ぶんの手当を受け取る権利がありますよ。次の仕事を探している間、国がお金を出してくれます」
夫は、私が作り話でもしているような目で、こっちを見ました。
これは、あの日、誰かに渡してほしかったガイドです。
全部読む時間がない人へ(先に結論だけ)
- 外国人も失業手当をもらえる? → もらえます。雇用保険に入っていれば(正社員ならほぼ自動で、初任給から払っている)。 国籍は関係ありません。
- 自分から辞めても大丈夫。アメリカと違い、日本は「自己都合退職」でも、待機期間のあとに支払われます。
- 配偶者ビザなら、失業しても在留資格に影響なし(就労ビザは別。後述)。
- 早く再就職するとボーナスが出る ── 再就職手当。夫も、予想以上の額をもらいました。
- 待機期間は昔は長かった。夫は2019年に 3ヶ月 待った。2025年4月からは 1ヶ月 に短縮。
- ハローワークには通訳がいる ── 全部の窓口じゃないけど、全国135か所+13言語の電話通訳。
そもそも外国人は失業手当をもらえるのか(もらえます)
この記事で一番大事な一文:日本で正社員として働いていたなら、あなたはほぼ確実に雇用保険料を払っていて、それは他の誰とも同じ「失業手当を受け取る権利」を意味します。国籍テストはありません。
多くの外国人がこれを知らない理由は、 雇用保険料が、給料明細の中の、誰も読めない小さな一行 だから。日本の給料明細は漢字の壁です。日本人でさえ、自分が何に払っているか分かっていない人が多い。夫ももちろん分かっていませんでした。
でも、ちゃんと払っていた。1年間。そして1年ぶんの加入期間があれば受給資格を満たします(自己都合退職の場合、原則として離職前2年間に12ヶ月以上の被保険者期間が必要)。
配偶者ビザならではのメリット
国際カップルにとって、地味だけど本当に大事な話:
配偶者ビザ(日本人の配偶者等)なら、在留資格は仕事に紐づいていません。 無職でも、転職しても、起業しても、半年休んでも、ビザは関係なし。だから失業手当をもらっても、日本に住む権利には一切影響しません。
これは 就労ビザ(技術・人文知識・国際業務など)では当てはまりません。就労ビザは「働く活動」に紐づいているので、失業すると届出義務があり、長い空白期間は在留資格のリスクになりえます。(就労ビザでも失業手当はもらえますが、 ビザの時計は別問題として走っている ということ。)
夫は配偶者ビザでした。だから私たちにとって、悩みは常に「書類」だけ。「これで在留資格が危うくなる?」という心配は、一度もありませんでした。
必要書類リスト
私たちが持って行ったもの(窓口によって多少違うので要確認):
- 離職票 ── 元の勤務先が発行。2019年は会社に紙でお願いして取り寄せました。今は マイナポータル で受け取れることも。本当に便利になった。
- 在留カード ── 交渉の余地なし。
- マイナンバー
- 銀行口座の情報(手当の振込先)
- 証明写真(数枚)
- 印鑑(あれば)
ハローワークでの手続きの流れ
名前の豆知識:「ハローワーク」は和製英語っぽく見えて、実は 政府公式の英語名称 なんです(正式名称は「公共職業安定所」)。英語でも “Hello Work” が公式名。
ざっくりの流れ:
- 求職申込をして、離職票を提出
- 雇用保険の説明会に出る
- 4週間に1回の「認定日」 にハローワークへ行き、求職活動を報告
- 認定のたびに手当が振り込まれる
言語について:窓口の人は日本語で話します。でも、英語のパンフレット(他言語も)があり、 外国人雇用サービスコーナーが全国135か所 に通訳付きで設置されていて(英・中・葡・西・韓・タガログ・越・ネパール・ウクライナ語など)、さらに 13言語の電話通訳(三者通話) もあります。全部の窓口にあるわけじゃないので、自分の地域の主要なハローワークにあるか確認を。 通訳を頼むのは、遠慮しなくて大丈夫。
待機期間と給付制限(と、その間にやったこと)
最初の手当をもらうまでに、2つの「待ち」があります:
- 7日間の待期 ── 全員。この間は就労NG。
- 給付制限 ── 自己都合退職の人にかかる。
この2つ目が、ここ数年で劇的に変わりました:
昔と今(自己都合の給付制限):
- 夫・2019年:3ヶ月
- 2020年10月〜2025年3月:2ヶ月
- 2025年4月〜:1ヶ月
(※給付制限期間中に所定の教育訓練を始めると制限が解除される道もあります。最新はハローワークで要確認)
夫は3ヶ月、無給で待ちました。長かった。でも、私たちがその時間でやったことは、 わが家史上もっとも「円と禅」な決断 でした。
新婚旅行に行ったんです。
私の理屈:「 お金はない。でも、時間はある。お金は戻ってくる。でも、この自由な時間は今だけ。 」ロンドンに7泊(航空券・ホテル・朝食つきで、2人で20万円台。2019年の為替で)。そのあとアメリカに飛んで、夫の家族に「結婚しました」の電撃報告。
3ヶ月の給付制限は、2人ともアルバイトをすることなく終わりました。(給付制限期間中は、申告すれば短時間のアルバイトもできます。私たちはただ、時間を別のことに使うことを選んだだけ。)
そのあと、コロナが来て、世界は何年も閉じました。あの、お金もなくて手当も出ない空白の時間を飛行機に使ったこと ── 一度も後悔していません。
4週間ごとの認定日
手当をもらい続けるには、4週間に1回、決められた 認定日 にハローワークへ行き、ちゃんと求職活動をした証明を出します ── 原則、 認定期間ごとに2回以上の求職活動(応募・面接・ハローワークでの相談など)。出頭して、活動を見せて、認定されて、振り込まれる。
この「求職活動を証明しなきゃいけない」仕組みは、外国人にとって一番のカルチャーショックのひとつ。後述します。
再就職手当 ── 誰も教えてくれないやつ
夫が「えっ、 なにそれ?」と言ったパート。
所定の給付日数を使い切る前に次の仕事が決まると、日本は手当を止めるだけじゃなく、 「早く働き始めたボーナス」 をくれます。これが再就職手当。
仕組み(最新の数字はハローワークで要確認):
- 支給残日数が所定給付日数の1/3以上 残っていること
- 残り2/3以上:残日数 × 70% × 基本手当日額
- 残り1/3〜2/3:残日数 × 60% × 基本手当日額
- 自己都合の給付制限期間中は、原則 ハローワークの紹介経由 の就職であること(制限が明けたら、自分で見つけた仕事でもOK)
夫の仕事は、ハローワークの窓口経由で決まったもの ── だから対象になりました。新しい勤務先が書類を書いて、会社経由でハローワークに提出。数週間後、 予想より多かった。ランチを何百回分も買えるくらい。夫は通知を3回読み返して、4回目にやっと信じました。
ここで、ちょっとだけ皮肉な話を。
私は日本人。制度を知っているはずの側です。でも私は、休憩室に漂うあの口コミ ──「 失業手当はもらい切ってから就職したほうがトク 」── を信じていて、職員さんの説明を半分しか聞いていなかった。
夫は、文化的なショートカットを何も知らないまま、ただ素直に、ハローワークの人の説明を聞いた。そして 「この制度はむしろ"早く働き始めた人"にご褒美をくれる」 と理解して、給付期間中にあえて就職を決めたんです。
結果、夫のほうが得をした。 何も知らないピュアな外国人が、「制度に詳しいはず」の日本人妻を、その日本の制度で出し抜いた のでした。
外国人がハローワークで困ること
- 全部日本語。書類も、説明会も、認定の紙も。通訳を連れて行くか、電話通訳を使って。
- 「求職活動を証明する」概念 自体が、その文化のない国の人にはピンとこない。
- 自己都合 vs 会社都合のワナ。もし退職を迫られたら、これだけは知っておいて:会社都合と自己都合では、 給付制限も給付日数も大きく違います(会社都合は給付制限なし+給付日数が多いことも)。会社は、コストや手間の都合で「自己都合にして」と圧力をかけてくることがあります(外国人も例外じゃない)。 人事に出された紙に、よく分からないままサインしないこと。 違いを理解してから合意を。
- 一番のハードルは「信じられない」こと。「自分から辞めたら何ももらえない」国から来た人には、日本がお金を払ってくれるなんて、にわかには信じがたい。でも、払ってくれます。
夫は、やりとげた
採用通知がついに届いたとき ── 3社に落ちたあと、面接会場に向かう電車を乗り間違えないように乗り継ぎを練習したあと ── 夫はキッチンで「 できたー!! 」と叫びました。
仕事も、失業手当も、再就職手当も、ぜんぶ手に入れた。そして、アメリカの家族に今も語り継ぐネタも手に入れた。家族は信じられないでいます。「自分から辞めたのに、日本は金を払ってくれて、そのうえ"辞めるのをやめた"らまた払ってくれるのか」と。
もしあなたが今、日本で退職を考えている外国人(あるいはそのパートナー)なら ── あなたはたぶん、知らないうちにこの制度にお金を払ってきています。最寄りのハローワークに行ってみてください。離職票と在留カードを持って。必要なら通訳をお願いして。
夫がそうだったように、あなたもきっと、 「こんなに人を受け止めてくれる仕組みを、誰かが作っていたのか」 と、静かに胸を打たれて帰ってくるはずです。
これは私たちの個人的な体験談であり、金融・税務・移民に関するアドバイスではありません。制度や金額(待機期間・給付日数・再就職手当の率・通訳の有無)は変わることがあり、窓口によっても異なります。最新の情報は、お近くのハローワークや出入国在留管理庁の公式情報でご確認ください。本記事の数字は2026年5月時点の情報に基づきます。